稲荷の住宅改修

築70年の祖父母の家を改修し自邸とした。
場所は静岡県中部の郊外、周辺は準工業地域に指定されているが住宅も多く、その中に小さな事務所や作業場が混在しているような地域である。

改修した建物は私の育った実家の斜め向いにあり、幼い頃から30年間ほど空き家だったため、毎日視界には入っていたが、特別に意識することはなく既に周囲の環境の一部となっていた。
祖父母の家というよりは、一つの自立した建築物という認識だったと思う。

この建物を改修し、私たち家族4人が住むにあたり、既存の状態と新たに手を加える部分という二つの要素に加えて、新旧関係なく一つずつの個性が最大限発揮される改修をすることにより、最終的にはすべてが混ざり合い調和がとれている状態を目指した。

あらゆる個性を同時にまとめあげることが難しかったため、まずは段階的に考えた。
建築を構成する基本要素である床面、壁面、天井面、天板などの「面」に着目し、それぞれに対して単独に最適な状態を探る。
その際には全体のバランスや相互関係のことは考えず、バラバラな部分同士がただ「隣り合ってる」だけという状態を想定した。

そして次に、空間全体のバランスを考え始めた。
特に注意したのは各「面」同士の接点や境界面の端部の接し方で、「スパっと歯切れよく接する」もしくは「段差をつけて離す」など個別な状態に応答することを意識した。

元々この家にあった床の間や縁側も機能面という点では特別な機能はない。
しかしこの[間]という自立した面が、居住空間に隣り合う(そこに在る)ことで日々の生活に奥行きが出るのである。
同様の意識で元々一階のタンス置きだったスペースを新たにギャラリースペースにし、2階の階段ホール廻りも押入を撤去することで「面」として整えていった。

繋がりや循環という全体性を意識することは大事な視点で今後も重要なキーワードになるだろう。
一方で自立していないまま即効性があるつながりを意識し過ぎたが故に、分断も同時に起きやすくなる状況もある。
安易に混ぜようとせずに、ただ隣り合っているのみ、存在しているのみという状況をまず考えることも今ある物や状況にもう一度目を向けるという意味においては長期的で継続的なつながりを生むのではないか。

「個々の個性を尊重し、追及することで、全体の調和をつくり出す」
建築と同様に、家族においても同じように言えるかも知れないと、この建築に住みながら引き続き考えて行きたいと思う。

_建築概要

  • 所在地: 静岡県島田市
  • 主要用途: 専用住宅(リノベーション)
  • 構造規模: 木造二階建
  • 延床面積: 120.31㎡
  • 竣工: 2023年3月
  • 施工: 構木築志
  • 写真: RACHI SHINYA